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ゼロからはじめる磁気応用技術(その1)
生活や産業で様々な恩恵を受ける
永久磁石に関する6つの素朴な疑問
私たちの生活や産業分野には数多くの「永久磁石」が幅広く使われています。
マコメ研究所製の磁気センサーなどにも使用されています。これだけ暮らしやビジネスに密接でありながら、意外と永久磁石について知られていません。
そこで、永久磁石の性質や特性に関する6つの疑問について説明します。
1. 永久磁石の歴史は古いの?
永久磁石の歴史は意外に浅く、本格的には20世紀に入ってから盛んになったもので、人類が電気を使い出してからその特性が注目されてきた経緯があります。特にわが国の物理学者がこの分野での開拓者であったことはあまり知られていないのが残念です。昔は、日常的に磁石を使うシーンが少なかったことが理由だと思われます。
2. 永久磁石に寿命はあるの?
永久磁石の寿命は定義により異なりますが、磁力が自然に弱くなってしまうという観点では半永久的に使えます。ただし、性能の劣化は多少なりとも存在します。これも材質にもよりますが、100年、200年のスパンでわずか数%の変化ですから問題ない範囲です。ちなみに保磁力の大きなものほど長期的に安定して使えます。
3. 永久磁石は、高温、低温で使えるの?
永久磁石をある温度範囲内で使っている限りは「可逆変化」を起こし、温度により磁力が変化しても、また温度が戻れば元に戻ります。しかし、それ以外の高温、低温では磁力の減磁(もしくは消滅)が起きてしまいます。その特性は磁石材料や磁石特性で異なります。
特に磁石特性が角形である異方性でさらに形状が薄い磁石は、低温減磁を起こしやすいので注意が必要です。高温では材料の「キュリー温度(磁気を失う温度)」手前付近で急激に減磁し、その温度に達すると永久磁石ではなくなってしまいます。そのため、前もって強制的に使用温度より外れた温度を加え強制減磁させ、安定させて使う方法もあります。用途にあった材質や特性の磁石を選ばないとトラブルの原因となります。
冷凍倉庫等を含む一般的な使用環境では、最も熱の影響を受けやすいフェライト磁石でも通常問題ありません。しかし製鉄といった高温が想定される環境へは、サマリウムコバルト磁石をお奨めする場合があります。
4. 磁気を通さない物はあるの?
時々、「磁気を通さない良いものがあったら教えて下さい!」と聞かれることがありますが、残念ながら光のように磁気を遮る物はまだ見つかっていません。現在は磁気発生源を、用途にあった形状の磁性材料で取り囲んだりすることにより磁束密度分布を大きく変化させコントロールすることは可能です。
5. 「等方性」と「異方性」とは何?
永久磁石は、同じ磁石材料でも「等方性」と「異方性」の2つのタイプがあります。例えば、学校で国語、算数、理科、社会……何でもそれなりにできる子が等方性であり、算数だけはズバ抜けて良くできるが、他の教科はさっぱりと言うのが異方性といえます。
製造過程で特に処理しないとあらゆる方向から着磁ができる等方性磁石となりますが、反面磁力は大きく出てきません。それに対して異方性磁石は、製造過程で特定方向に磁気を与えるとその方向に対し特異性を示し、強力な磁石を作ることができます。ただし、それ以外の方向から着磁しても弱い磁石となってしまいます。
余談ですが、フェライト磁石の製品カタログによく「乾式」「湿式」と書かれていますが、これも製造過程で水分を含んだ粉を粉砕して製造したか否かにより乾式または湿式が決まり、磁力では「湿式>乾式」の関係があります。
6. 永久磁石は、何で作られているの?
永久磁石の材質を大きく分けると、「焼結磁石」と「鋳造磁石」に分かれます。焼結磁石は粉末の金属酸化物等を練り固め焼いた瀬戸物のようなもので、硬く脆い性質があります。それに対して金属元素を溶かし固めたものが鋳造磁石となり機械加工ができます。また「ゴム磁石(ボンド磁石)」は金属酸化物粉と樹脂やゴムを混ぜて固めた物で、材質により柔軟性のある物と硬い硬質の物があります。
磁気センサーで扱う永久磁石としては、温度変化の少ない磁力の安定した入手しやすい物が使われます。汎用には焼結やプラスチック材の「ストロンチウムフェライト磁石」が良く使われます。高精度や耐熱にはサマリウムコバルト磁石(焼結)やアルニコ、KM鋼等の鋳造磁石が使われます。
永久磁石の強さの目安である
磁束密度と距離との関係性
永久磁石から発せられる磁束は、光のように直進せずにN極からS極に向かうため曲線を描きます。一般的に永久磁石の強さの目安となる磁束密度は距離の2乗に反比例すると言われていますが、実際には有限長磁石では磁石寸法で割合が異なります。ここで簡単な目安となる計算方法を紹介します。いま磁石の短い方の辺の「寸法(W)」と「厚み(t)」との比を求めます。ただし、厚み方向に着磁されている場合です(図1)。
図1 磁石の幅と厚みによる寸法比
表は概略値ですが指数係数と寸法比を示した表です。形状が長方形の板状バリウムフェライト磁石に対応します(指数計算を伴いますので、四則計算だけの電卓では計算できないので、関数計算ができる電卓を用意ください)。
表 寸法比と指数係数の関係
図2のr離れた点で磁束密度A[T]とすると、X点離れた点の磁束密度は、大体1式のような寸法比に伴う距離のn乗の比で計算されます。例えば、永久磁石寸法「W50×t0.8mm」とすると寸法比は、「62.5」となり、表からnは約1.28乗となります。
図2 永久磁石寸法と距離との関係を示す計算式
ただし、あくまでも概算値なので目安と考えてください。本来、永久磁石の磁束密度は磁石外形により特性が変化するため、単純な計算式では正確には求めることはできません。
なお、導体に電流が流れている場合の磁束密度は永久磁石とは異なり、磁束密度は「距離(r)」に反比例して増減します(図3)。よって、距離が倍になると磁束密度は半分となり、こちらは比較的簡単に求めることができます。
図3 導体に電流が流れた場合の磁束密度